大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

佐賀地方裁判所 昭和30年(行)5号 判決

原告 増田達一

被告 大和村選挙管理委員会

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告のなした「告示第一四号」並に「大和選第十号決定」及び佐賀県選挙管理委員会のなした「佐選第三九〇号裁決」は共に之を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として被告は昭和三十年四月二十六日「大和村選挙管理委員会告示第一四号」により公職選挙法第三十三条第三項の規定により大和村長選挙に関する告示をなした

仍て原告は同年五月五日異議申立書により右選挙の告示は公職選挙法第百十七条によるべく被告のなした告示は依拠法条を誤つたものとして被告に差出したに拘らず被告は同月六日右違法の告示により村長選挙を執行し、同月十四日「大和選第十号」により原告の右異議申立の却下決定をなした。

原告は更に同月二十五日、佐賀県選挙管理委員会宛訴願書を訴願法第二条によらしめる意思で被告を経由して差出したところ被告は之を原告に返戻したので、原告は該訴願書を直接佐賀県選挙管理委員会に提出したところ右委員会は同年七月八日訴願を提起すべき期限経過の理由を以て却下の裁決をなした。

しかしながら被告のなした「告示第一四号」は前示のとおり明かに依拠法条を誤つた違法の告示であり、従つて被告が原告の異議申立を却下した「大和選第十号決定」及び佐賀県選挙管理委員会のなした「佐選第三九〇号裁決」も共に違法であるから、原告は公職選挙法第二百五条により選挙の効力を争うものではないが、大和村の住民にして選挙民たる資格により右告示並に裁決の取消を求めるため本訴に及んだものであると陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め

本案前の答弁として原告は本訴に於て被告のなした「告示第一四号」が公職選挙法第百十七条に準拠してなされていないのは違法であるとしてその取消を求めているが公職選挙法は法定の選挙の効力に関する争訟手続による外、選挙の管理執行に関する個々の行為についてその個別的違反を理由として該行為の効力を争うことを許さない趣旨と解すべきであり、従つて選挙の期日の告示の取消を求める訴は不適法として却下せらるべきであり、更に告示そのものを対象として異議の申立を許されないと解すればかかる異議の申立についてなされた決定に対し訴を以てその取消を求める部分も不適法として却下を免れない。

なお原告は被告を相手として佐賀県選挙管理委員会のなした裁決の取消を求めているがこの点について被告は当事者適格を有せずこれ亦不適法として却下せらるべきであると述べ、

本案の答弁として原告主張事実中、被告が昭和三十年四月二十六日原告主張の告示をしたこと、原告が同年五月五日異議申立をなし被告が原告主張の決定書を送付したこと、同月六日原告主張の選挙が執行されたこと原告がその主張の訴願書を被告に差出し被告が之を原告に返戻したこと、及び原告の訴願に対し佐賀県選挙管理委員会が原告主張の裁決をなしたことは何れも之を認める。

大和村の設置による長の選挙は公職選挙法第三十三条第三項の規定する「五十日以内」に行うことを要しその選挙の期日は昭和三十年法律第二号地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律第四条第二項、附則第三項に則り公職選挙法第三十三条第八項第四号所定の「少くとも十日前」に告示しなければならないのであるが、本件告示は右条項に従い、該選挙の期日を右の「五十日以内」たる昭和三十年五月六日とし、且つ選挙の期日前「十日前」なる同年四月二十六日になされた適法なものであつて、該告示中に同法第百十七条を掲記しなかつたとしても毫も違法ではないと述べた。(立証省略)

理由

原告の本訴が大和村村長選挙の効力を争うものでなく被告のなした村長選挙期日の告示の違法を理由として之が取消を求めるものであることはその主張自体より明かであるから本訴は当裁判所の管轄に属するものと認める。

按ずるに選挙とは選挙期日の告示、候補者の届出の受理、選挙管理人、投票立会人の選任、各選挙人の投票とその管理、投票の結果の審査、当選人の決定等の諸行為を包括する集合的行為であつて選挙の管理執行に関する一連の行為を総称する観念である。而して公職選挙法第二百五条によれば、これら選挙の管理執行に関する規定に違反することがあつても選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合でなければ、選挙を無効とすることができないのであるから、選挙の執行が終つた後でなければこれら選挙の管理執行に関する規定の違反を理由とする選挙の効力はこれを決定することができないものといわなければならない。従つて同法第二百二条は選挙の終つた日を基準とし選挙の効力に関し異議のある選挙人又は候補者に対し十四日以内に選挙管理委員会に対し異議の申立を許しているのである。

しからば公職選挙法はこれら選挙の管理執行に関する個々の行為が選挙の規定に違反することがあつても法定の選挙の効力に関する争訟手続によらずして個別的にその違反行為自体を理由としてその効力を争い異議の申立訴願の提起又は訴訟の提起等をなすことを許さないものと解すべきである。

然るに原告の本訴は選挙の効力を争うものではなく選挙期日の告示の違法を理由としてその取消を求めるものであり、なお本訴請求中原告が原処分庁たる被告に対し訴願裁決庁たる佐賀県選挙管理委員会のなした「佐選第三九〇号裁決」の取消を求める部分は当事者適格を欠いているから原告の本訴は全部不適法として之を却下すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎光次 田中武一 小川正澄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例